2025年1月上旬、世界最大級のテックイベント「CES 2025」で、トヨタ自動車株式会社 代表取締役会長の豊田章男氏が登壇し、同社が進める未来型実証都市「ウーブン・シティ」の最新状況について発表しました。トヨタファンならずともワクワクするようなビジョンが次々と飛び出したプレゼンテーションを、ポイントを押さえてご紹介します。
トヨタはクルマづくりだけの会社じゃない
これこそが、豊田章男会長がCES 2025でいちばん伝えたかったメッセージ。自動織機メーカーとしてのDNAに立ち返り、新時代の技術やビジネスモデルを世界中のパートナーと共同開発する“実証都市”ウーブン・シティ。そこでは“儲け”よりも“未来への投資”を最優先に、人もロボットも進化を続ける全く新しい暮らしが始まろうとしています。
富士山のふもとに広がる“実証実験の街”ウーブン・シティ
フェーズ1の竣工を発表
ウーブン・シティは静岡県側の富士山麓に位置する、まさに“生きた研究開発拠点”です。住民が自発的に実証実験に参加し、世界中の研究者や企業が先端技術をテストできる場として構想されました。
この日のプレゼンで豊田会長は、ウーブン・シティの第一期工事(フェーズ1)の竣工を正式に発表。今年から実際に住民が生活を始めるとのことです。
最終的には約2,000名が生活する予定で、トヨタ従業員や家族、定年退職後の方々、小売業者、世界中の科学者、パートナー企業、スタートアップや研究者などが含まれます。そしてもちろん、ペットも大歓迎だとか。「こちらが私のペット、“ミニー”です!」と嬉しそうに紹介する豊田会長の姿が印象的でした。
低・ゼロエミッションが当たり前の街
トヨタがウーブン・シティで目指すのは“持続可能性”の追求。交通手段はすべて低排出もしくはゼロエミッションでの運用を目指し、その取り組みが評価され、コミュニティとしては日本初となる「LEEDプラチナ認証」も取得しています。
研究開発のテーマは「ヒト」「モノ」「情報」「エネルギー」の4つのモビリティ。ここを“モビリティのテストコース”として、多彩なソリューションを開発していく構想です。
- 例えば車椅子のレースカーや高速で移動するパーソナルモビリティ
- 夜道での安全をサポートしてくれるドローン
- 高齢者に寄り添うペット型ロボット
- 「空飛ぶクルマ」を開発するJobyとのコラボレーション
ウーブン・シティから東京へ、空を飛んで渋滞知らずで行ける日もそう遠くないかもしれません。さらに豊田会長は「元工場の建物を、大型航空機も格納できる実験場に転用した」と述べ、モビリティの可能性を“地上”にとどまらない形で広げています。
人もロボットも“学習”する家
ウーブン・シティは住居そのものも新技術の実証フィールド。
日常生活を助けるロボットを開発中で、その一例が「ロボットによる洗濯物の畳み方学習」でした。スタッフがカメラを使ってTシャツの畳み方をロボットに“教示”すると、ロボットは翌日には同じ畳み方を再現。たった一晩で、かなりの精度で“習得”してしまうのです。
同じく自動運転やAI技術の開発も進行中で、中でもe-Paletteを活用した物流・移動サービスをはじめ、なんと自動でドリフトまでできるレースカーもお披露目されました。豊田会長自身「自動運転は退屈かと思っていたけど、これは最高!」と笑顔で語るほどの迫力です。
トヨタの“織機”のDNAと「Weavers(ウィーバーズ)」
トヨタは間もなく創業100周年を迎えますが、その原点はクルマではなく、自動織機を発明した企業でした。ここから「布を織る=Weave」という言葉が社名や街の名称にも反映されており、ウーブン・シティの住民のことを「Weavers(ウィーバーズ)」と呼んでいるのもそのためです。
クルマにおける「テストドライバー」のように、ウーブン・シティの住民は、インベンターたちが開発した新たなアイデアやサービスを実際に使い、未来のイノベーションを紡いでいきます。
“儲からなくてもいい”――未来へ投資するトヨタの姿勢
豊田会長は「ウーブン・シティは収益に貢献するか? たぶんそうはならないでしょう」と前置きしつつ、「でも構わない」と言い切ります。トヨタは“グローバル企業市民”として、培ってきた知見や技術を共有し、人々が未来をより良くするためのアイデアを試せる場所を提供する――それこそが同社の責任だと考えているのです。
今夏にはピッチコンテストを実施し、スタートアップや個人を対象に、ウーブン・シティでの実証を支援するための資金を提供予定とのこと。自動車産業以外の業界の知見を掛け合わせる「掛け算による発明」で、新しい価値やサービスを生み出していく展望を示しました。
空も宇宙も、その先へ
「スカイ・イズ・ザ・リミット(限界はない)」を合言葉に、空に浮かぶモビリティやロケット開発にも言及する豊田会長。「モビリティの未来は地球上にとどまらない。自動車会社1社だけの話でもない」と、そのまなざしは遥か遠くを見据えているようでした。
最後に
「未来を良くしたい、変化を起こしたい、価値のあることをしたい」と感じるすべての人々に向けて、豊田会長は「ウーブン・シティへの参加招待状を受け取ってください」とメッセージを締めくくりました。
クルマだけでは終わらない、そして利益追求だけでもない。かつて自動織機から始まったトヨタが描くのは、人類の未来を鮮やかに“織り”あげる大いなる挑戦です。その一端を垣間見せたCES 2025での発表は、トヨタファンならずとも見逃せない内容でした。
私たちがいつか、富士山のふもとで“織り”込まれた新しい暮らしを体験する日も遠くない――そんな期待に胸が高まる、CES 2025のトヨタプレゼンテーションでした。





